
観光業界に携わる皆様にとって、「観光DXの推進」は避けて通れないテーマとなっています。デジタル技術を活用することで、旅行者の体験価値を高め、業務効率を改善し、新たな収益源を確保することが期待されています。本記事では、観光DXの概要からその推進によって得られるメリット、直面しうる課題、そして具体的な取り組み事例や支援制度まで、幅広く解説します。
顧客体験を向上するデジタルコンテンツの事例や取り組みはこちら!
過去にも未来にも、名画やアニメの世界にも行けるーー「観光DX」は時空と次元を超える深みがある
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歴史DXの進化に求められるものとは?ーーリアルなモデリング技術とスコープ型デバイスのユーザビリティ
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観光DXの概要
観光DXの推進は、デジタル技術の活用により観光業界全体を変革し、新たな価値創造を目指す動きです。これにより、観光地や旅行会社は従来の枠を超え、デジタル化による新しいスタイルを確立することが期待されます。
観光DXとは
観光DXとは、デジタル技術を活用して観光分野の業務プロセスを変革し、新たな価値を創造する取り組みを指します。これは単にデジタルツールを導入するだけでなく、収集したデータを分析・活用することで、ビジネス戦略の見直しや新しいビジネスモデルの創出を目指すものです。旅行者の利便性向上や観光地経営の高度化、観光産業全体の生産性向上など、多岐にわたる効果が期待されており、観光庁もその推進に力を入れています。
観光DXが注目される背景
観光DXが近年特に注目されている背景には、いくつかの要因があります。一つ目は、観光客の消費行動のデジタル化へのシフトです。多くの旅行者が情報収集や予約をオンラインで行うようになり、デジタル対応が不可欠となりました。二つ目は、インバウンド需要の回復とそれに伴う多様なニーズへの対応です。日本の魅力をデジタルで発信し、より多くの外国人観光客を惹きつける必要性が高まっています。三つ目は、観光産業が抱える人手不足や生産性の低さといった構造的な課題解決の必要性です。デジタル技術を活用した効率化や新しい働き方の導入が求められています。これらの背景から、観光DXは業界の持続的な発展に不可欠な要素となっています。

観光DXを推進する利点
観光DXの推進は、観光業界に多くの利点や効果をもたらします。デジタル技術の導入は、単なる業務効率化に留まらず、旅行者の体験価値向上やビジネス全体の強化に繋がります。
旅行者の満足度向上
観光DXは、旅行者の満足度向上に大きく貢献する効果が期待できます。例えば、オンラインでの宿泊予約やアクティビティの申し込みがよりスムーズになることで、旅行前の計画段階でのストレスが軽減されます。また、AIを活用したパーソナライズされた観光プランの提案や、多言語対応のデジタル観光案内は、旅行中の利便性を高め、より快適な体験を提供することを可能にします。さらに、バーチャルツアーやAR技術の活用により、これまでにないインタラクティブな体験を提供し、旅行の思い出をより豊かにする効果も期待できます。
観光関連ビジネスの強化
観光DXの推進は、観光関連ビジネスの強化に多大な効果をもたらします。デジタル技術を活用することで、顧客データの収集・分析が容易になり、これにより旅行者のニーズや行動パターンをより深く理解することが可能になります。また、オンラインでの販路拡大や、多様な予約・決済方法の提供は、新たな顧客層の獲得にも貢献します。加えて、デジタルを活用した新しい観光コンテンツの開発は、他の地域との差別化を図り、競争力の強化に繋がる効果も期待できます。
効率的な運営と人的ミスの削減
観光DXは、業務プロセスのデジタル化と自動化を進めることで、効率的な運営と人的ミスの削減に顕著な効果をもたらします。例えば、宿泊予約や在庫管理システムを導入することで、これらの業務にかかる時間を大幅に削減し、ダブルブッキングといったヒューマンエラーを防ぐことが可能です。AIを活用した問い合わせ対応システム(チャットボット)は、24時間体制での顧客対応を可能にし、従業員の負担を軽減します。また、デジタルツールによる情報共有の効率化は、部門間の連携をスムーズにし、業務全体の生産性向上に繋がります。これらの効率化とミスの削減により、サービス品質の向上と顧客満足度の維持・向上に貢献する効果が期待できます。
従業員の有効活用
観光DXを推進することで、反復作業や定型業務の自動化が進み、従業員はより創造的で付加価値の高い業務に注力できます。これにより、予約管理やデータ入力といった単純作業から解放され、質の高い顧客サービスや新しい体験プログラムの企画・開発に時間を費やせるようになります。また、デジタルツールによる情報共有やコミュニケーションの効率化は、従業員間の連携を強化し、チーム全体の生産性向上に繋がります。
観光分野が抱える課題
観光DXを推進する上で、観光分野が従来から抱えているいくつかの課題に対処する必要があります。これらの課題は、デジタル技術の導入と活用を妨げる要因となる可能性があります。
デジタル化の遅れ
観光分野が抱える課題の一つとして、他業界と比較してデジタル化の遅れが指摘されています。たとえば予約や業務の管理がいまだに人の手作業に依存している部分が多く、デジタル化を推進するための積極的な取り組みが求められています。観光DXを成功させるためには、まずこのデジタル化の遅れを解消し、基礎となるデジタル環境を整備することが不可欠となります。
IT関連の専門知識を持つ人材の不足
観光分野が抱える重要な課題として、IT関連の専門知識を持つ人材の不足が挙げられます。デジタル技術を導入し、効果的に活用するためには、システムの設計・構築、運用、データ分析など、専門的なスキルを持った人材が必要です。しかし、観光産業の特性や業務に精通しつつ、高度なデジタル技術を扱える人材は多くありません。こうした人材の育成には時間とコストがかかるため、観光DX推進の計画段階で、外部からの専門家登用や既存従業員のスキルアップなどを検討する必要があります。
導入や運用にかかる費用
観光DXを進める上で、導入や運用にかかる費用は大きな課題の一つです。新しいシステムやツール導入の初期費用に加え、ランニングコストも発生します。 また、従業員への教育コストや、結果が出るまでに時間がかかる可能性も考慮が必要です。 これらの費用負担を軽減するため、国や自治体の補助金制度の活用を検討することが重要です。
既存の観光資源との調和
観光DXを推進する上での課題として、既存の観光資源との調和が挙げられます。デジタル技術の導入は、伝統的な街並みや自然景観といった既存の観光資源の魅力とどのように融合させるかが重要になります。例えば、最新技術を導入しても、それが地域の雰囲気や景観を損なうようであっては、観光客の満足度を低下させる可能性があります。観光DXは、単に技術を導入するだけでなく、地域の文化や自然といった既存の価値を尊重しつつ、デジタル技術によってその魅力をさらに引き出すようなアプローチが求められます。

観光DXの取り組み事例
観光DXは既に様々な地域や事業者で推進されており、その取り組み事例は多岐にわたります。これらの事例は、観光DXの可能性や具体的な導入イメージを理解する上で参考になります。事例を学ぶことで、自社の観光DX推進のヒントが得られるかもしれません。
日本国内でのデジタルコンテンツ導入事例
日本国内では、多様な観光DXの取り組みが進められています。これらの事例は、デジタル技術を活用して旅行者の顧客体験向上や地域経済の活性化を目指すものです。これらの取り組みは、観光客の体験価値を高めるだけでなく、観光事業者の業務効率化にも貢献しています。
現代の街並みに実物大の恐竜たちが登場!「恐竜さんぽ道」福井駅周辺ARコンテンツ
https://www.cadcenter.co.jp/works/archives/11154/
現代の街並みを背景に恐竜たちが闊歩する姿や、街中を悠然と飛び回る様子を見て楽しむことができるARコンテンツです。現地に設置されたQRコードをスマートフォンで読み取ると、6種類の恐竜たちが実物大で現れます。WebARなのでアプリダウンロードの必要が無く、QRコードを手持ちのスマートフォン等で読み取るだけでコンテンツを手軽に楽しめます。
ARで歴史体験!往時の「難波宮(なにわのみや)」がスマホカメラ越しに浮かび上がる「NaniwaAR」
https://www.cadcenter.co.jp/works/archives/11206/
大阪市中央区にある難波宮跡公園にて、往時の「難波宮(なにわのみや)」をARで体験できるコンテンツ「NaniwaAR(なにわーる)」。WebARの仕組みを使い、現地の看板やサインポールのQRコードをスマホで読み込むことで特設サイトにアクセス。サイト内で「ARを見る」をタッチするとカメラ越しに当時の宮殿が合成されて出現し、かつての難波宮の風景が浮かび上がります。特設サイト内の各ページ、解説のテキストと音声、使い方解説動画は多言語に対応しています。
来訪者に「知る・楽しむ・思い出に残す」を提供 ARアプリ「バーチャル攻略高天神城」 VR空間「バーチャル高天神城」
https://www.cadcenter.co.jp/works/archives/10279/
現地で利用できるARアプリ「バーチャル攻略高天神城」は、9カ所に設置したマーカーを読み込むことで、当時の地形や構造物が画面越しに表示される仕組みです。
合戦の様子などを臨場感のあるアニメーションとともに見ることができ、往時の様子が目の前に立ち現れるような体験が可能です。
また、360°VR空間「バーチャル高天神城」では、史跡エリアをオンライン上で自由に探索できます。これにより、高天神城への関心を高め、来訪のきっかけづくりにもつながっています。
本コンテンツを担当された掛川市ご担当者様のインタビューでは、施策の背景や公開後の反響についてより詳細に紹介してます。
https://www.cadcenter.co.jp/article/column/interview_kakegawa/
来訪のきっかけづくりやオンライン授業へ活用 バーチャルミュージアム「旅するれきはく」
https://www.cadcenter.co.jp/works/archives/2499/
大分県立歴史博物館の展示をオンライン上で再現した本コンテンツでは、豊富な解説に加え、学芸員による説明動画や3Dモデルを通じて、館内展示を疑似体験できます。
Webコンテンツとして提供されているため、PCはもちろん、スマートフォンやタブレットからもアクセス可能。自宅での学習やオンライン授業など、時間や場所を問わず手軽に活用できます。
また、すべてのコンテンツは日本語と英語の二言語に対応。タブの切り替え操作で、解説や説明をそれぞれの言語でご覧いただけます。
海外での先進的な事例
海外でも、先進的な観光DXの事例が見られます。例えば、シンガポールでは、データ分析を活用して観光客の行動パターンを詳細に把握し、パーソナライズされた情報提供やサービスの開発に活かしています。これにより、旅行者一人ひとりに最適な体験を提供し、満足度を高めています。また、一部の欧州の都市では、AR技術を活用した観光案内アプリが導入されており、スマートフォンの画面を通して歴史的な建物の情報や再現映像を見ることができるなど、没入感のある観光体験を提供しています。さらに、ブロックチェーン技術を活用したセキュアな個人情報管理や、スマートコントラクトによるスムーズな取引を実現する事例も登場しており、将来的にはこれらの技術が観光分野でも広く活用される可能性があります。これらの海外事例は、日本の観光DX推進においても参考となる示唆を与えてくれます。
観光DX推進時の留意点
観光DXの推進を成功させるためには、いくつかの重要な留意点があります。これらの点に注意を払うことで、より効果的かつ持続可能な取り組みが可能となります。
目的の明確化
観光DXを成功させるためには、まずその目的を明確にすることが不可欠です。何のためにDXを推進するのか、解決したい課題は何かを具体的に定める必要があります。例えば、顧客満足度の向上や業務効率化、新たな収益源の確保など、目的に応じて導入すべきデジタル技術や戦略は変わってきます。目的が曖昧なままでは、効果測定が難しく、期待する成果を得られない可能性もあります。関係者間でしっかりと議論し、共通の認識を持つことが重要です。
外部組織との連携
観光DXを効果的に進めるためには、外部組織との連携が不可欠です。IT企業やコンサルティング会社はデジタル技術やノウハウを提供し、観光地域づくり法人(DMO)は地域戦略に基づいた推進をサポートします。 他の観光事業者との連携により、共通プラットフォームの構築やデータ共有が進み、地域全体のDX加速に繋がる効果も期待できます。 観光DXは単独ではなく、多様な組織との連携を通じてエコシステム全体で取り組む視点が重要です。
情報管理の徹底
観光DXを進める上で、個人情報の適切な管理は非常に重要です。デジタル化により収集されるデータには、顧客のプライバシーに関わる情報が多く含まれます。これらの情報が漏洩したり、不正に利用されたりすると、顧客からの信頼を失い、事業に大きな影響を与える可能性があります。そのため、データの暗号化やアクセス制限、定期的なセキュリティチェックなど、強固なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。また、従業員への情報セキュリティ教育も徹底する必要があります。情報管理を徹底することで、安全に観光DXのメリットを享受できます。
観光庁による観光DXへの取り組み
観光庁は、日本の観光立国推進に向けた重要な柱の一つとして、観光DXの推進に積極的に取り組んでいます。様々な施策や支援制度を通じて、全国の観光地や観光産業のデジタル化を後押ししています。
観光庁が目指す方向性
観光庁は、「観光DX推進のあり方に関する検討会」での議論を踏まえ、目指す方向性を公表しています。これは、「第4次観光立国推進基本計画」に基づき、観光分野のDXを推進し、旅行者の利便性向上や周遊促進、観光産業の生産性向上、観光地経営の高度化等を図るものです。具体的には、地域全体で宿泊・交通・体験などの予約・決済をシームレスに行えるウェブサイトの構築や、旅行者の属性・行動に合わせた情報の提供、データに基づいた観光地域経営などを進めています。これらの取り組みを通じて、「稼げる観光地域・産業」の創出を目指しています。
関連する支援制度
観光庁は、観光DXの推進を支援するための様々な制度を設けています。例えば、「全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」として、デジタルツールの導入やデータ活用による「稼げる観光地域・産業」の創出を目的とした補助金制度を実施しています。この補助金は、地域一体となったデータ活用による販路拡大やマーケティング強化、宿泊事業者の収益向上や業務効率化に繋がるDXを支援対象としています。また、「観光地・観光産業における人材不足対策事業」では、自動チェックイン機や予約管理システムなどの導入に対する補助を通じて、人手不足の解消と生産性向上を支援しています。これらの支援制度は、観光事業者が観光DXに取り組む際の費用負担を軽減し、デジタル化への一歩を踏み出しやすくすることを目的としています。
まとめ
本記事では、観光DXの概要、メリット、課題、そして国内の取り組み事例について解説しました。観光DXは、デジタル技術を活用して観光の質を向上させ、業界が抱える課題を解決する取り組みです。旅行者の利便性向上や業務効率化、新たな顧客体験の創出など多くのメリットがあります。しかし、デジタル化の遅れやIT人材不足、導入・運用コストといった課題も存在します。これらの課題を克服し、外部連携や情報管理を徹底しながら観光DXを推進することで、地域経済の活性化や持続可能な観光の実現に繋がります。観光庁も様々な支援策を展開しており、これらを活用しながら、日本の観光をさらに発展させていくことが期待されます。